新潟市燕市。平成の大合併の前には、その中に「分水町」という町がありました。町の象徴には信濃川を分流させる大河津分水があり、その河川敷に咲き誇る桜を背景に行われる「分水おいらん道中」は春の新潟の恒例行事となっています。
そんな分水地区に、この4月、ちいさな居酒屋が誕生しました。店の名は「夕凪」。店を仕切るのは店長兼オーナーの峰島さん。これまで多くの飲食店で板前として腕を振るってきた峰島さんが、念願をかなえた初めての「自分の店」です。
「板前になったときから、いつかは自分の店を持ちたいという気持ちはありました。だけど現実はなかなかそううまくはいかなくて。結婚したり子供ができたりするとますます…」。
そんな峰島さんの転機になったのは、協栄信用組合が開催した「きょうえい創業講座」への参加でした。この講座を企画したのは、協栄信用組合営業推進部。のちに峰島さんを担当することになる小柳直樹次長も、その営業推進部に所属しています。
「創業講座、起業講座はあちこちで盛んに開催されていますが、多くは中小企業診断士などの専門家を迎えて行われます。そんななかで私たちの『きょうえい創業講座』では、地元で起業した5人の女性起業家を講師として迎え、より実践的な講座にしています」。
「5人の女性起業家」とは、燕市を中心に活動する任意団体「ハート♥美人」のメンバーを指します。建築、店舗デザイン、マーケティング、マネージメント、コーチング、ウェブ、財務面など、それぞれがビジネスの成功に欠かせない専門スキルを持ち、起業をサポートします。
「仲間」がいたから叶った夢
「ちょうど板前を辞めて魚市場で働いていた時期に、嫁さんが『こんなのあるよ』と『きょうえい創業講座』のチラシを持ってきて。
板前をやっていた頃だったら、週末の講座なんて絶対行けなかったんですが、今なら行ける。
それでちょっと行ってみようかと。お金も掛からないですし(笑)。
そこで『ハート♥美人』のみなさんのお話しを聞いて、自分なりに創業計画書を記入していくうち、どんどん現実感が増してきて。
板前をやっていた頃は『いつか起業したいな』と思ってはいても、一人で戦っている感じでした。でも、講座には起業しようという同じ目的の仲間がたくさんいる。いろいろな気づきもあるし刺激もある。どんどんモチベーションが高まっていきました」(峰島さん)。
「最初に奥様から勧めがあったのがポイントですね。創業講座で最初に問いかけるのは、『ご家族の協力はありますか?』ということ。苦しいとき、辛いときに、最初に頼りになるのは家族。その家族の協力なしには、起業は考えられないからです。峰島さんには起業する環境が、根っこの部分でできていました」(小柳次長)。
7回の講座を受けながら、創業計画書の記入欄をひとつひとつ埋めていくうち、峰島さんの「夢」は、だんだんと明確な「ビジョン」になっていきます。7回の講座を受け終わり創業計画書が完成する頃には、創業2年目の収支まで見通せるほどになりました。
「もし、僕みたいなとりたてて信用がない人間が金融機関に行って『店を出したいのでお金貸してください』と言っても、なかなか貸してくれないと思います。でも、無料の講座を受けることで、お金を借りる準備ができました。経営の勉強もできました。起業家のネットワークもできました。講座を受けて本当に良かったです」(峰島さん)。
峰島さんの店「夕凪」は、夫婦で切り盛りすることを基本に、お客の顔が見える店づくりを行いました。空き店舗の改装には、「ハート♥美人」のメンバーにも力を貸してもらったそうです。
魚市場から仕入れる鮮魚や、丁寧に骨を抜いた手羽先のガーリック炒めなど、峰島さん自慢の味を求め、店は順調に客足を伸ばしています。もちろん、小柳次長も同僚とともにちょくちょく足を運んでいるそうです。